お大事に
日本のとあるスーパーが、体調不良で社員がお休みのため通常通りのサービスを提供できない旨正直に張り紙にしたところ話題になっているという ↓
「お肉を切れる人がいません」
時々日本のニュースを見るとこちらだと問題にもならないようなことが記事になっていて「確かに日本だとこんなことそうそう起こらないもんね」と改めてお国柄の違いを感じることがある。
特に労働環境の話題は違いを痛感させられる。
ご存知のとおり欧州では休暇が長い上に病気・怪我などの場合は有給とは別に病欠を取ることができる。
特にドイツは労働者の権利が法律でガッチリ守られていることで名高い。
まず3日間は診断書がなくても具合が悪いと会社に伝えればいいだけなので些細なことでも躊躇なく休む。それ以上長くなるとお医者さんの診察が必要だが、病名はプライバシー情報なので会社に提出する診断書には病名は記載されないし、上司に詳細報告する必要もなければ上司はどこが悪いのか部下に聞くことも許されない。要は「お医者さんが病気だと判断した」ということを証明すれさえすれば十分。子供が病気の場合両親は別枠の病欠を使うこともできる。
こんな有り難いシステムだともちろん悪用してズル休みをする人も多かれ少なかれいる。しかし病欠している人に文句を言う人はいない。「人間だもの、病気になるのは当たり前でしょ」と。
日本では高熱でも出社して空き時間に近くの病院で注射を打ってもらったり、出勤時に足を骨折しても病院でギプスと松葉杖をもらい午後から出社したりとドイツでは考えられないような生活を送っていたワタシは、当初”たかが”風邪気味で欠勤するなどという発想は毛頭なく咳をしながら出社したら「なんで具合が悪いのに来るんだ!」と心配しているんだか自分たちに病気が移ることを心配しているんだか、とにかくすごい勢いで家に帰れと同僚たちに説得され半ばつまみ出されるようにオフィスを出た。
病院に行くと先生は診断書に”病欠5日”と書いた。風邪ごときで一週間なんてあり得ない!「どんなに長くても2日しか留守にできないので書き換えてほしい」と懇願すると「ドイツ人ならもっと長くしてっていうのにさすが日本人ですね~」って笑われた。
←風邪用ハーブティ、エルダーフラワーとかタンポポとか色々なハーブが配合されている。こういうのを飲んで一週間お家でのんびりするのが普通。
たしかに同僚たちは病欠といえば最低一週間はいない。日本だとよっぽど深刻な病気でない限り一週間も病欠する人がいなかったので最初ワタシは同僚が病欠するたびにとても心配していた。
ところがある日FBを見ると病欠しているはずの同僚が友達と楽しそうにディナーをしている写真を見つけてしまった。またある時はBBQに誘われて友人宅に行くと病欠しているはずの同僚が元気そうに来ていた。もちろん’病気’は体だけでなく精神的なものや肩こりなんかも含まれるので気晴らしをした方がよい病気だったのかもしれないけど、深刻な体の病気だと思いこんでいたワタシはビックリすると同時に、上司に知られたらどうしようなんて不安のかけらもなく陽気に楽しんでいる彼らを見て『心配して損した・・』と思った。
また休暇中病気になると有給ではなく病欠がカウントされるので帰ってきたと思ったら改めてバケーションに出かける人までいて開いた口が塞がらなかった。
2020年の一人あたり年間平均病欠は11.2日というから年間有給約30日と合計すると年間約40日以上不在ということになる。
引用:”Krankheitsbedingte Fehltage im Jahr je Arbeitnehmer in Deutschland von 1991 bis 2020″
https://de.statista.com
そんなに休んで支障がないのか、といえばハッキリ言ってあまりない。それは必ずカバーしてくれる同僚がいるからでも、ハイテクなシステムがあるからでもなく、サービスの受け手が「不在なら仕方ない」と諦めるからだと思う。前もって予定している有給の場合でもよっぽど大切な用事は済ませていくか同僚に引き継ぐけど、全部引き継いでどんなことが起きても自分の代わりを務めてくれる代理を立てるようなことは決してしない。問い合わせ窓口などで「担当者はあと2週間したら戻ってくるからその後電話して」と言われるのは日常茶飯事。
病欠で人員が足りないために何の告知もなくお店がしまっていたり、開/閉店時間が変更になったり、普段ある物やサービスがなかったり、とにかくそんなのはあるある。二言目には“Da kann man nichts machen!(だって仕方ないじゃない)”と言われる。
散々経験するとサービスそのものに対する期待値が下がり、期待通りでなくてもそれほど打撃を受けなくなる。そして「それって本当に本当に今日中じゃなきゃ死ぬほど困るのか」「ちょっと我慢すれば来週でも大丈夫なのでは」と妥協、あきらめ、許しの境地に至る😑
日本だとみんな忙しすぎて余裕がないから「ゆっくり休んで」という気持ちになれなかったり、思わず「不健康な生活を送ってるからいけない」とか「気がたるんでる」とか責めたくなるのかもしれないけど、みんなが“完璧でない”ことを許せるようになるといいよね、「仕方ないね」と。
だって肉がなければ魚を買えばいいし、どうしても肉が欲しけりゃ他の店に行けばいい。
逆に病を押して出てきた人が切った肉は食べたくないし、ましてやそんなことをさせるお店には一円たりとも払いたくない。
まず会社は病欠を有給とは別に定めるべきよね。そして‘偉い’人は嫌な顔せず具合が悪い部下は家に帰す!自分も具合悪かったら率先して休む!それで誰かに迷惑かかるならどうにかするのが役目でしょ、そのためにたくさんお金もらってるんだから。もし一人休んで会社が傾くようなら何もしなくてもその会社はすぐ潰れると思うし、逆に言うと一人いなくなってもたいがい会社はびくともしないでしょ。
Superパーフェクトなサービスはいいけど、その裏にはそれを支えるために身をすり減らして働いている人がいるってこともうそろそろ本気で気づいてほしい、とサービス砂漠だけど労働者天国のドイツから切に願う。